介護の仕事をしていて腰を痛めた場合、労災として認定されるケースがあります。「自分の不注意だから」と諦める前に、まず労災申請を検討することが大切です。
厚生労働省は「業務上腰痛の認定基準」を定めており、介護現場での移乗介助・入浴介助・体位変換といった業務が原因の腰痛は、一定の条件を満たせば労災補償の対象になります。
この記事では、腰痛が労災認定される2つの基準・申請の手順・現場でできる予防策・腰に負担の少ない働き方まで、介護職の方が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
介護職に腰痛が多い理由
介護の仕事は、身体的な負担が大きい職種のひとつです 。厚生労働省の調査によると、社会福祉施設における腰痛による休業4日以上の労働災害は、全産業の中でも上位に位置しています。
腰痛が起きやすい主な業務は以下の通りです。
- 移乗介助:ベッドから車椅子、車椅子からトイレへの移動を介助する際、前傾姿勢で利用者の体重を支えるため、腰に大きな負荷がかかります。
- 入浴介助:中腰の姿勢が長時間続き、湿った床での滑りやすい環境も重なります。
- 体位変換:ベッド上での寝返りや姿勢の調整は、繰り返し行うことで腰部への疲労が蓄積します。
- 排泄介助:トイレや居室での介助は、狭いスペースで無理な姿勢になりやすい場面です。
これらの業務を毎日繰り返すことで、腰への負担が積み重なり、慢性的な腰痛や急性の腰部捻挫につながります。
介護職の腰痛は労災になる?認定される2つの基準

腰痛が労災として認定されるには、「業務遂行性」(業務中の出来事であること)と「業務起因性」(業務が原因であること)の2つが認められる必要があります。
厚生労働省の認定基準では、腰痛を次の2種類に分けて判断します。
災害性の腰痛(突発的な出来事が原因 )
仕事中の突発的な出来事によって急激な力が腰にかかり、発症した腰痛です。次の2つの要件をどちらも満たす場合に労災補償の対象となります。
- 腰の負傷または負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
- 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
介護現場での具体例:利用者が急にバランスを崩したため咄嗟に支えようとして腰を捻った、移乗中に利用者が予想外に動いて腰に強い力がかかった、などのケースが該当します。
なお、「ぎっくり腰(急性腰痛症)」は日常的な動作でも起きるため、仕事中に発症しても直ちに労災とはなりません。ただし、発症時の動作や姿勢に異常性があり、腰への強い力の作用が認められる場合は対象になることがあります。
非災害性の腰痛(日々の業務の蓄積が原因)
突発的な出来事ではなく、日々の業務による腰部への負荷が徐々に蓄積して発症した腰痛です。発症原因によって次の2つに区分されます。
| 区分 | 認定の目安 | 介護職での例 |
|---|---|---|
| 筋肉等の疲労が原因 | 約20kg以上の重量物を繰り返し中腰で扱う業務に約3か月以上従事 | 体重の重い利用者の移乗介助を毎日繰り返す |
| 骨の変化が原因 | 約20kg以上の重量物を労働時間の半分以上扱う業務に約10年以上従事 | 長年にわたり重度介護の現場で勤務し続けた場合 |
介護職では利用者の体重が「重量物」に相当するため、日々の移乗・入浴介助の積み重ねが非災害性腰痛の認定につながるケースがあります。
労災認定されないケース
以下のような場合は、業務起因性が認められず、労災補償の対象外となることがあります。
- 帰宅後や休日に自宅で転倒して腰を痛めた(業務遂行性がない)
- 椎間板ヘルニアなどの既往症があり、腰部に特に過度な負担がかかる業務に従事していたわけではない場合
- 加齢による骨の変化が原因で、「通常の加齢の範囲内」と判断された場合
労災申請の手順|5ステップで解説
腰痛が労災に該当すると思われる場合は、以下の手順で申請を進めましょう。申請は労働者本人が行うことができ、会社が協力を拒否した場合でも申請は可能です。
- 医師の診察・診断を受ける:まず整形外科などで診察を受け、腰痛の診断書を取得します。診察の際は、「仕事中のどの業務で、どのように腰を痛めたか」を具体的に伝えることが重要です。
- 会社(事業主)に報告する:業務中の負傷・疾病として会社に報告します。会社は請求書の「事業主証明欄」に記入する義務があります。
- 請求書を記入する:求める給付の種類に応じて、厚生労働省所定の請求書(療養補償給付・休業補償給付など)を記入します。書式は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
- 労働基準監督署に提出する:記入した請求書を、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
- 審査・支給決定の通知を受ける:労働基準監督署が調査を行い、認定されれば「支給決定通知書」が届きます。不支給の場合は審査請求(不服申立て)が可能です。
労災申請に関する一般的な相談は、労災保険相談ダイヤル(0570-006031)でも受け付けています(平日8:30〜17:15)。
介護職の腰痛を予防する方法
腰痛は一度発症すると慢性化しやすいため、日頃からの予防が最も重要です。現場でできる予防策を4つの観点から解説します。
ボディメカニクスを身につける
ボディメカニクスとは、人体の力学的な仕組みを活用して、最小限の力で介助を行う技術です。腰への負担を大幅に軽減できます。
- 支持基底面を広げる:足を肩幅程度に開いて立つことで、体の安定性が増します。
- 重心を低くする:膝を曲げて腰を落とし、腰だけで持ち上げる動作を避けます。
- 利用者に近づく:介助する人と利用者の距離が近いほど、腰への負担が少なくなります。
- 身体をひねらない:移乗の際は足を動かして体全体の向きを変え、腰だけをひねる動作を避けます。
ノーリフティングケアを取り入れる
ノーリフティングケアとは、「人力のみで利用者を抱え上げない」という考え方に基づくケアの方針です。スライディングシートやリフトなどの福祉用具を積極的に活用することで、介護職員の腰痛リスクを大幅に下げることができます。
オーストラリアやイギリスでは法律で人力のみの抱え上げが禁止されており、日本でも厚生労働省がノーリフティングの普及を推進しています。施設全体で取り組むことで、腰痛による離職率の低下にもつながります。
腰痛対策グッズを活用する
日常的に使えるグッズを活用することで、腰への負担を軽減できます。
| グッズ | 効果・使い方 |
|---|---|
| 腰痛ベルト・コルセット | 腰を固定・サポートし、移乗介助などの負荷の高い業務中の腰への負担を軽減します。ただし常時着用は筋力低下につながるため、業務中のみの使用が推奨されます。 |
| スライディングシート | ベッド上での体位変換や水平移動の際に利用者の下に敷くことで、摩擦が減り少ない力で介助できます。 |
| スライディングボード | ベッドと車椅子の間に橋渡しして使用し、抱え上げなしで移乗を行えます。 |
| 移乗用リフト(ホイストリフト) | 電動で利用者を持ち上げるため、介護職員の腰への負担をほぼゼロにできます。 |
| 入浴用シャワーチェア・バスボード | 入浴介助時の中腰姿勢を減らし、腰への負担を軽減します。 |
職場環境の整備とセルフケア
個人の取り組みだけでなく、職場全体での環境整備も重要です。ベッドの高さを介助しやすい位置に調整する、床の滑り止めを整備するといった対策が効果的です。
また、仕事終わりのストレッチや入浴での温熱ケア、十分な睡眠も腰痛の慢性化を防ぐうえで大切です。腰に違和感を感じたら早めに整形外科を受診し、悪化させないことが長く働き続けるための鍵となります。
腰に負担の少ない働き方・職場の選び方
腰痛が慢性化している場合や、腰への不安を抱えながら働いている方には、身体的負担が比較的少ない職場・勤務形態を選ぶことも有効な選択肢です。
デイサービス(通所介護)
デイサービスは日中のみの勤務が基本で、夜勤がありません。入浴介助や機能訓練のサポートが中心ですが、入所施設に比べて重度介護の割合が低く、夜間の緊急対応もないため、体力的な消耗が少ない傾向があります。
訪問介護
訪問介護は1対1での介助が基本です。施設介護と比べて一度に複数の利用者を対応する必要がなく、自分のペースで介助できる場面も多くあります。ただし、自宅環境は施設ほど整備されていないケースもあるため、ボディメカニクスの習熟が特に重要です。
夜勤なし・日勤専従での勤務
夜勤は身体的・精神的な疲労が大きく、疲弊した状態での介助はケガのリスクを高めます。日勤専従での勤務を選ぶことで、規則正しい生活リズムを保ちながら腰への負担を管理しやすくなります。
介護職員のうち約3割が夜勤なしで勤務しており、特にデイサービスや訪問介護では7割以上が日勤専従です。「夜勤なし=給与が低い」というイメージがありますが、処遇改善加算の充実により、日勤専従でも十分な収入を得られる職場が増えています。
ノーリフティング導入施設を選ぶ
求人票や職場見学の際に「ノーリフティングケアを導入しているか」「移乗用リフトやスライディングシートを整備しているか」を確認することで、腰痛リスクの低い職場を見極めることができます。

よくある質問
Q1: 腰痛で労災申請したいが、会社が協力してくれない場合はどうすればよいですか?
A: 会社が事業主証明を拒否した場合でも、労災請求は可能です 。その旨を請求書に記載して労働基準監督署に提出してください。労働基準監督署が直接調査を行います。また、労災保険相談ダイヤル(0570-006031)や社会保険労務士・弁護士への相談も有効です。
Q2: 労災申請には時効がありますか?
A: あります。療養補償給付・休業補償給付の請求権は2年、障害補償給付・遺族補償給付は5年の時効があります。腰痛が発症したと思われる時点から時効が進行するため、早めに申請することをおすすめします。
Q3: 労災が認定されると、どのような補償が受けられますか?
A: 主な給付として、治療費が全額支給される療養補償給付、休業中の賃金の約80%が支給される休業補償給付(休業4日目から)、後遺障害が残った場合の障害補償給付などがあります。
Q4: 既往症(椎間板ヘルニアなど)があっても労災申請できますか?
A: 申請自体は可能です。既往症がある場合でも、業務によって症状が再発・悪化した場合は、元の状態に回復させるための治療費が労災補償の対象となることがあります。まずは医師に相談し、業務との関連性を診断書に記載してもらうことが重要です。
Q5: 腰痛が悪化して仕事を続けられない場合、退職すべきですか?
A: 退職を急ぐ必要はありません。まず労災申請を行い、休業補償給付を受けながら治療に専念することができます。また、腰への負担が少ない職場への転職を検討することも選択肢のひとつです。ブレイブでは、腰痛を抱える介護職の方の転職相談も承っています。
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まとめ
介護職の腰痛は、一定の条件を満たせば労災として認定されます。「災害性の腰痛」(突発的な出来事が原因)と「非災害性の腰痛」(業務の蓄積が原因)の2種類があり、どちらも厚生労働省の認定基準に基づいて判断されます。
腰痛になってしまった場合は、まず医師の診察を受け、業務との関連性を記録しておくことが申請の第一歩です。会社が協力しない場合でも、労働基準監督署への直接申請が可能です。
また、腰痛を予防するためには、ボディメカニクスの習得・ノーリフティングケアの導入・対策グッズの活用が効果的です。すでに腰に不安を抱えている方は、デイサービスや訪問介護など身体的負担が少ない職場への転職も検討してみてください。
ブレイブ登録者の声
「移乗介助で腰を痛めて、このまま続けられるか不安でした。ブレイブに相談したら、ノーリフティングを導入しているデイサービスを紹介してもらえて、今は腰の痛みを気にせず働けています。」(40代女性・K.M.さん)
「労災のことを知らずに我慢して働いていました。ブレイブのコーディネーターに相談して、腰への負担が少ない職場に転職できました。もっと早く相談すればよかったです。」(30代男性・T.N.さん)
ブレイブは、腰痛などの身体的な不安を抱える介護職の方の転職相談も承っています。今すぐ、簡単登録(無料 )をしてみませんか?
執筆・監修
ブレイブ コラム編集室
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