介護士ができる医療行為はある? できること・できないことを解説
介護の現場では、利用者に対する医療行為が求められる場面も少なくありません。医療行為は、介護士が行ってよいもの、行ってはいけないものが法律で定められています。介護の仕事を行う上で、必ず理解しておかなければならない知識の一つです。
今回の記事では、介護士が行える医療行為の範囲や、できない医療行為などについて詳しく解説します。
介護士も医療行為ができる?
介護士の医療行為に関する決まりは、法律によって定められています。基本的なルールについて、しっかりと理解しておきましょう。
一部の医療行為は認められている
そもそも医療行為については、医師、歯科医師、看護師などの免許を持たない人は行ってはならないと法律で定められています。医療関連の免許を持たない介護士も、基本的には医療行為を行ってはいけません。
しかし実際は、高齢者や障がいを持つ人に介護を行う現場で、利用者のために医療行為が求められることもあります。特に以前までは、医療行為の定義や範囲も曖昧であり、介護士がどこまで行ってよいかの判断が難しい部分もありました。
そこで2005年に厚生労働省が発表したのが「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」です。これにより、介護職員が一部の医療行為を行うことが認められました。
介護士ができる医療行為とその条件
「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」では、介護現場で必要と考えられる業務の中で「医療行為に該当しないとするもの」「介護職員も行ってよい医療行為」が明確化されました。
◼︎医療行為に該当しないとするもの
- 体温計による体温測定
- 自動血圧測定器による血圧測定
- 新生児以外で入院治療を必要としない患者に対するパルスオキシメータ(酸素濃度測定器)の装着
- 専門的な技術や判断を必要としない軽い切り傷、擦り傷、やけど等の処置(汚れたガーゼの交換を含む)
◼︎条件を満たせば医療行為に該当しないとするもの
- 皮膚への軟膏の塗布(床ずれの処置を除く)
- 皮膚への湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服介助(舌下錠の使用も含む)
- 肛門からの坐薬挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧を介助
■条件
- 入院、入所した上で治療する必要がなく、容態が安定している場合
- 副作用の危険性、投薬量の調整等による、医師や看護職員の経過観察を必要としない場合
- 誤嚥、坐薬による肛門からの出血の可能性などがなく、医薬品の使用方法そのものについて専門的な配慮を必要としない場合
介護士ができない医療行為
高齢者や障がいを持つ人が利用する介護の現場では、介護士が行ってもよいとされるもの以外にも、医療行為が必要となる可能性はゼロではありません。そのため、介護士が行える範囲や、禁止されている医療行為についても必ず理解しておきましょう。
法律で制限されている医療行為
以下の医療行為は、それぞれの条件や範囲を満たせば介護職員も行ってよいとされています。
- 爪切り、爪のやすりがけ(爪やその周囲の皮膚に異常がなく、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要でない場合)
- 歯磨き、口腔ケア(重度の歯周病等がない場合)
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
- ストマ装具のパウチの排泄物の処理(肌に接着したパウチの取り替えを除く)
- 自己導尿を補助するためのカテーテルの準備、体位の保持
- 市販の浣腸器を用いた浣腸
また、2012年には、介護福祉士または一定の研修を受けた介護職員は、一定の条件の下で痰(たん)の吸引、経管栄養等の行為を実施できる制度も施行されています。
医療従事者のみが行える医療行為
以下のような行為は医療従事者のみが行える医療行為にあたり、介護士が行うことは禁止されています。介護の現場では、看護師に行ってもらう必要があります。
- インスリン注射
- 血糖値の測定
- 摘便
- 床ずれに対する処置
- 点滴管理
ただし、利用者がインスリン注射を打ち忘れないように声をかけたり、血糖値の値を利用者と一緒に確認したりと、介護士がそれぞれの行為のサポートを行うことは可能です。
介護士が医療行為を行う際の注意点
最後に、介護士が医療行為を行う場合の注意点を解説していきます。
法的責任とリスク管理
介護現場では、予期せず医療行為が求められる場面に遭遇することも少なくありません。しかし、介護士が行える医療行為の範囲は法律で定められているため、その範囲を超えてしまえば法律違反となってしまいます。罰則を受ける可能性もあるため、まずは介護士が行える医療行為の範囲をしっかりと理解しておくことが不可欠です。
また、介護現場で医療行為が必要となる場合、利用者の命に関わる可能性もあります。迷ったときは自己判断するのではなく、必ず看護師や医療従事者へ判断を仰ぎましょう。
研修や教育の重要性
介護士が行える医療行為の範囲を理解するために、事前に十分に学んでおくことも重要です。研修や講座などを通じて、法律で認められている範囲の医療行為とはどんなものなのか、どこまで介護士が行ってよいのかをしっかりと頭に入れておきましょう。
また、介護施設を管理する立場になった場合は、利用者に安全な介護を提供することはもちろん、施設で働く介護士たちが自信を持って仕事に臨むことができるよう、研修や教育を充実させることも重要です。
介護の現場で求められる医療行為の中には、介護士が行えるものと、そうでないものが法律で定められています。介護士はそれらをしっかりと理解した上で、仕事と向き合うことが必要です。介護職を目指す方は、事前に必ず医療行為に関する知識についても学んでおきましょう。