モンテッソーリ教育とは? 何が身につく? どんな教育?
90年以上の歴史を持つ「モンテッソーリ教育」という教育法について、耳にしたことがあるという人も多いのではないでしょうか。モンテッソーリ教育の歴史や特徴、具体的な内容などについて解説します。
- モンテッソーリ教育とは
- モンテッソーリ教育の5分野
- モンテッソーリ教育で使用する「教具」とは?
- モンテッソーリ教育を受けられる施設とは?
- モンテッソーリ教育を受けるメリット
- モンテッソーリ教育を受けるデリット
- モンテッソーリ教育の園で働くために必要な資格
モンテッソーリ教育とは
モンテッソーリ教育とはどのような教育法なのか、以下、概要を説明します。
モンテッソーリ教育の歴史
モンテッソーリ教育は、ローマ大学医学部でイタリア初の女性の医学博士号を取得したことで知られるマリア・モンテッソーリ(1870~1952)によって考案されました。
卒業後、ローマ大学付属の精神病院で働くようになったモンテッソーリは、知的障害があるとされる幼児が床に落ちたパン屑で遊ぶ姿を目撃。幼児が感覚的な刺激を求めることに気づき、指先を動かす玩具を与えることで感覚を刺激し、知的障害があっても知的水準を向上させる効果があることを実証しました。
この結果を踏まえて、1907年にはローマの貧困層の健常児を対象に適用する機会を得ます。そこでもモンテッソーリは著しい成果を上げ、保育施設「子どもの家」にて独自の感覚教育法を完成させました。
子供たちの知能向上に役立つとされるこの教育法は、後に「モンテッソーリ教育」と名づけられます。また、モンテッソーリ教育を実施する施設は「子どもの家」と呼ばれるようになりました。
以降、モンテッソーリ教育は現在に至るまで世界各地で実践されています。モンテッソーリ教育を受けた著名人としては、アンネの日記の著者として知られるアンネ・フランク、ワシントン・ポスト誌の経営者およびジャーナリストだったキャサリン・グラハムなどが挙げられます。また、インターネット界の著名人にもこの教育を受けた人が多く、Amazon.comの創立者であるジェフ・ベゾス、Googleの共同創立者であるセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、Wikipedia創設者であるジミー・ウェールズらもその中に含まれます。
モンテッソーリ教育の目的
モンテッソーリ教育の目的は、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことです。
そのためモンテッソーリ教育では、子供たちが自由に自発的な行動・活動に取り組むことが尊重されます。その際、周囲にいる大人は、子供が好きなように教具を選んで遊べる環境を用意し、好奇心を刺激するような魅力的な教具をそろえ、子供がみずから成長しようとするのを手伝う「援助者」として接することが求められます。
モンテッソーリ教育の5分野
モンテッソーリ教育では次の5つの教育分野が用意されています。
日常生活の練習
子供が「模倣期」と「運動の敏感期」のプロセスをたどるのを利用しながら、自分の体を意志どおりにコントロールする能力を身につけることを促します。
感覚教育
子供は3~6歳の間に五感が著しく発達する特別な時期「感覚の敏感期」があるとされています。これを利用しながら、意識的に感覚器官を使った遊び・練習を実践します。
言語教育
「言語の敏感期」に子供が言語能力を発達させていくのに合わせて、話す、書く、読む、さらに文法や文章構成力を身につけていくのをサポートします。
算数教育
子供が数字、物の大きさ、量などに興味を示す時期は「数の敏感期」と呼ばれます。感覚教具などを使って、数量について手で扱いながら覚えていくよう促していきます。
文化教育
言葉と数以外の、動植物、地理、地学、歴史、道徳(宗教)、音楽、体育、美術などを含む分野の能力を育みます。
モンテッソーリ教育で使用する「教具」とは?
モンテッソーリ教育では、上記の分野と目的に合わせてさまざまな教具を使用します。例えば日常生活の練習では「シール貼り」や「紐通し」、感覚教育では「円柱さし」や「積み木」、「味覚瓶」といった教具が用いられます。
モンテッソーリ教育で使用する教具は子供が興味を示し、思わず「やってみたい」と手に取りたくなるものであるよう工夫して作られています。色や形だけではなく、手触り、重さといった点でも子供が扱いやすいものになるよう考えられています。
また、皿などの器なら素材にプラスチックではなく陶器やガラスをあえて使用するなど、「本物」を用意することを重視しています。これは、よく似たコピー品を与えるのではなく、実際に落とすと割れてしまう、慎重に扱うなどの感覚を覚えさせるためです。
これらの点から、モンテッソーリ教育の教具は一般的な玩具と教育グッズの中間に位置するような存在だと言えます。
モンテッソーリ教育を受けられる施設とは?
モンテッソーリ教育を実践する教育施設は、現在世界140以上の国に存在すると言われています。日本にも2~6歳の幼児を対象とした「子どもの家」があります。子どもの家は、次の4つの要素を満たす環境が用意されているという特徴があります。
- 子供が自由に教具を選べる。
- 子供が「やってみたい」と思う面白そうな教具がそろえられている。
- 年齢縦断型のクラス編成がされている。
- 子供一人ひとりの発達段階に応じた環境を整備し、子供の自己形成を助ける先生がいる。
なお、モンテッソーリ教育は家庭でも実践できます。教具も販売されています。自宅で子供に教具を与える際は、親は手を出しすぎないことを意識するのがポイントです。あくまで子供の自発性や自立性を重視し、大人はあくまで見守る立場であることを常に意識しましょう。また、モンテッソーリ教育に関する民間資格も複数あります。
モンテッソーリ教育を受けるメリット
モンテッソーリ教育のメリットとしては、さまざまなことが挙げられます。
まず、子どもそれぞれの発達段階や性格に合わせた教育が基本なので、個性が伸ばせること。また、受け身型ではなく、自分が興味関心を持ったことに取り組むことを重視しているため、情緒が安定し、積極性も身につきます。こういった教育方針からは、自ら考えて解決しようとする姿勢を育むことにもつながり、知ること、学ぶことを楽しめるように。自分の意見もしっかり言える子になります。
クラス編成が縦割りなので、年齢を問わずにコミュニケーションがとれるようになることもメリットのひとつです。年下の子が年上の子からいい刺激を受けたり、年上の子が年下の子を面倒見たりということも。社会性の基礎が育まれると言い替えてもいいでしょう。他には、数多くの教具を使うので、手先が器用になるといったことも、メリットといえます。
モンテッソーリ教育を受けるデメリット
モンテッソーリ教育のデメリットとしてよく言われるのは、メリットの裏返しのようなことです。
たとえば、個性を尊重する教育をしているので協調性が育ちにくい、自己中心的な行動を起こしやすいといったことが該当します。みんなで足並みをそろえて同じことをすることが苦手になる可能性があるともいわれています。
また、ひとつのことに集中して取り組んだり、手先を器用に動かしたりできる反面、運動能力が伸びないということもデメリットとして挙げられることが多いようです。
ただ、縦割りのクラス編成で過ごすことを考えると、協調性もある程度は育まれていくと考えられます。運動については、園舎の立地など教育環境にも左右される面もあるかもしれませんが、朝から晩までじっとひとつのことをしているわけではないと考えると、デメリットとして挙げるほどのこともなさそうです。
モンテッソーリ教育の園で働くために必要な資格
モンテッソーリ教育に実践者として携わる場合は、専門の資格が必要です。資格には国際的に通用する「国際資格」と、国内での活躍に特化した「国内資格」があります。
具体的には、東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター、日本モンテッソーリ協会(JAM)、日本モンテッソーリ教育綜合研究所、AMI友の会NIPPONなどの専門教育機関で1~2年の教育を受け、それぞれの教育機関が実施する試験に合格すると資格が取得できるという流れです。
教育機関によって受講資格も異なります。たとえば「AMI友の会NIPPON」では、学部は問わず専門学校・短大・4年制大学のいずれかを卒業しているか、子どもの教育に関心があれば受講できますが、「東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター」の場合は、保育士か教育職に従事している人か専門学校・短大・4年制大学のいずれかを卒業している人、あるいは卒業見込みの人、センターが認めた人が受講できます。
なお、一般的な保育士として勤務するのであれば、保育士の資格があれば問題ありません。
モンテッソーリ教育は自宅でも行うことができます。その際には手を出しすぎず、子どもの自発性を尊重しましょう。モンテッソーリ教育の関連書籍もたくさん出ているので、保育士の方はぜひ勉強してみてはいかがでしょうか。