保育士の処遇改善手当とは? 制度の概要やもらえる金額など
保育士の離職率の高さ――その要因のひとつとして「給料が低いこと」が問題視されていました。保育士の処遇改善は、その給料の低さに対処する策として実施されている国の制度です。しかし「どんな制度なのかよくわからない」という声も多く耳にしますし、「あまり給料がアップした実感がない」という声も聞かれます。いったい保育士の処遇改善とは、どのような制度なのか、この機会に把握しておきましょう。
- 保育士の処遇改善とはどういう制度?
- 保育士の処遇改善加算の種類とそれぞれの意味
- キャリアアップ研修の詳細
- 処遇改善が受けられる条件園とそうではない園
- 処遇改善加算の支給方法
- 保育士の処遇改善手当について確認しておきましょう
保育士の処遇改善とはどういう制度?
保育士の処遇改善は、2013年に「処遇改善加算」という制度を設定したことに端を発します。以降、取り組みが進められてきました。まずは、この制度が設けられた背景について、しっかり理解を深めておきましょう。
冒頭でもお伝えしたように、保育士は離職率の高い職業として社会的に認知されてきました。一方で保育士は、社会的なニーズがとても高い職業でもあります。引く手あまたなのに、せっかく保育士になった人がすぐに辞めてしまうこと、保育士になっても長続きしないことが問題となっていました。その要因のひとつとして指摘されたのが、給料の低さです。
保育士は子どもの面倒を見るだけが仕事ではありません。現場に出ると、保護者とのコミュニケーションも取らなければなりませんし、保育園運営に関しては、ほかの保育士との連携も必要不可欠。勤務時間も朝早くから夜遅くまでと、ひとりひとりの保育士にかかる負担は、相当なものがあります。しかも、長年勤務しても、あまり給料は上がらないという現実もありました。
このような状況では保育士は疲弊するばかり、金銭的な事情から離職につながることも致し方ないとも言えます。とはいえ、給料の改善をはじめとした対策を取らなければ離職を食い止めることはできず、慢性的な人手不足も解消することはできません。
そこで国が打ち出したのが「処遇改善」という制度です。
保育士の処遇改善加算の種類とそれぞれの意味
では、保育士の処遇改善はどのように実施されているものなのでしょうか。具体策である「処遇改善加算」という制度について見ていくことにしましょう。ここで押さえておきたいのは、処遇改善加算には「処遇改善加算Ⅰ」「処遇改善加算Ⅱ」「処遇改善加算Ⅲ」という3のパターンがあることと、その違いについてです。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは、勤続年数やキャリアアップを条件として給料が加算されるという制度です。対象となるのは、保育園の正規職員はもちろん、一定の勤務時間数と日数をクリアしているパートやアルバイト、派遣などの非正規職員まで。幅広い職員を対象としています。
どのくらいの給料が加算されるかは、「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の割合によって決まります。
「基礎分」は、保育士ひとり当たりの平均勤続年数に応じて、2~12%の間で加算率が決まります。例えば、平均勤続年数が1年未満の場合は2%ですが、勤続年数が長くなるごとにパーセンテージが上がり、平均勤続年数が10年を超えると、以降は12%になるという仕組みです。
「賃金改善要件分」は、保育施設が行っている賃金改善への取り組みに応じて加算されるもの。「キャリアパス要件分」は、保育士のキャリアアップに力を注ぐ保育施設が対象で、勤務条件や研修の実施、それらを職員に周知徹底するなどの要件があります。キャリアパス要件分に関しては、要件を満たさないと、賃金改善要件分より2%が減らされることになっていますが、これは保育施設側の問題なので、ここでは参考程度に見ておいてください。
処遇改善加算Ⅱ
処遇改善加算Ⅱは2017年に導入された制度で、新たな役職を設置するなど、保育士のキャリアアップに取り組む保育施設に対して、そのために必要な費用が加算されるというものです。
背景には、キャリアアップしにくいという保育士の現実がありました。役職が「園長」「主任保育士」くらいしかないと、その役が空かない限り、何年勤めても役職に就けず、必然的に給料も上がらないということになります。その実態に手を入れ、若手や中堅もキャリアアップして、給与アップできる機会を設けたのです。
対象となるのは、3年~7年以上の経験を持つ保育士であり、規定のキャリアアップ研修を受講した人。「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」という役職に就くことができ、それぞれ規定の金額が加算されます。
処遇改善加算Ⅲ
処遇改善加算Ⅲは、2022年2月から実施されている制度で、対象となっているのは、保育園などで働くすべての保育士です。処遇改善加算の申請をした保育施設に対して、国が一定額を補助することにより、1人当たり毎月9,000円(収入の約3%換算)が、期間限定というかたちで給料に上乗せされてきました。
しかし、2022年10月には「補助」ではなく「公定価格」というかたちでの加算に切り替わっています。公定価格とは、簡単に言うと「保育に必要な費用として国が認定した費用」ということです。
先ほどお伝えしたように、処遇改善加算Ⅲは期間限定の制度ですが、終了時期は明確にされていません。しかし、補助から公定価格への変更、国が給料の引き上げは今後も実施していくと明言していることなどを踏まえると、給料の引き上げに関する施策は続くと考えて差し支えないでしょう。
キャリアアップ研修の詳細
キャリアアップ研修は、規定の研修を受けることで、役職に就くなどのキャリアアップと給与アップを実現するという制度です。対象となるのは一定年数以上の経験を積んだ保育士で、「専門分野別研修」「マネジメント研修」「保育実践研修」という3分野が設定されています。
処遇改善が受けられる条件園とそうではない園
ここで気をつけたいのが、処遇改善が受けられる園と受けられない園があるということです。それぞれの園について説明します。
処遇改善加算が受けられる園
処遇改善加算のうち、ⅠとⅡについては受けるための条件があります。受けることができるのは、認可保育園、認定こども園のほか、企業主導型保育、小規模保育事業など認可保育園として認められている施設です。なお、処遇改善Ⅲについては、認可・無認可のしばりがなく、すべての保育施設が対象となっています。
ただし、処遇改善加算を受けるためには、勤務する保育園や施設が、必要な手続きをすることが条件です。施設側がその手続きをしていない場合は、たとえ制度の対象となる園であっても、処遇改善加算を受けることはできないので、その点にはご注意ください。
処遇改善加算が受けられない園
処遇改善加算Ⅰおよび処遇改善加算Ⅱが受けられる保育施設は、先ほどお伝えしたとおりです。つまり、このふたつの制度に関しては、無認可保育園、病児保育室や一時保育園、児童発達支援事業所などの認可外施設は対象にはなりません。
ただし、前項にも記載したとおり、処遇改善Ⅲに関しては、認可・無認可に関係なく、支給対象となります。ただしこれも、勤務する保育施設が国に対して必要な手続きをしていることが大前提です。つまり、条件を満たしている保育施設であっても、園が処遇改善加算のための手続きをしていない場合は、処遇改善加算の受けることはできません。
処遇改善加算の支給方法
処遇改善加算による支給方法についても、理解しておきましょう。
処遇改善加算は、施設が申請した内容に基づき、必要分をまとめて国が保育施設に支給するという仕組みです。支給を受けた保育施設は、加算分を保育士ごとに割り振り、給料に上乗せしていきます。処遇改善加算は、保育施設を通じた国の施策ということで、支給は保育施設にゆだねられていることを押さえておきましょう。
どのような支給される名目や金額は、施設により異なります。給与明細を確認し、不明点がある場合は保育施設に問い合わせてみてください。
保育士の処遇改善手当について確認しておきましょう
保育士の処遇改善については、現在も段階的に対策が進められています。保育士の仕事は好きだけれど給料の安さがネックだった……という人にとっては朗報ともいえるのではないでしょうか。せっかく取得した保育士の資格です。ぜひ、活かしていきませんか? ブレイブが全国各地の求人を紹介し、就職のお手伝いをします。どうぞご利用ください。