知っておきたい! 介護におけるノーマライゼーションとは?
どの業界にも、業界ならではの専門用語、知っておきたい概念があります。福祉や介護なら「ノーマライゼーション」が、そのひとつ。一般的には、あまりなじみのない言葉なので「ノーマライゼーションって?」と思う人も多いかもしれません。しかし、介護の世界で働くのであれば、理解しておきたい言葉です。わかりやすく説明しますので、ぜひ覚えておきましょう。
ノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションは、日本語で「正常化」「正規化」「標準化」と訳される英語で、「normalization」と書きます。もう少し具体的に言い表すと、「すでに出来上がっている物事に対して、一定のルールを設定して整えようとする姿勢や考え方」ということ。
この言葉が介護とどのように関係するかは、ノーマライゼーションという言葉が使われるようになった背景を知るとしっくりくるはずです。
ノーマライゼーションという言葉の広まりは、1950年代の終わり、デンマークにおいて、知的障害者福祉法が成立されたことに端を発します。障害を持つ人もそうでない人も同じ生活が送れ、その権利が保障されるという内容が、「ノーマライゼーション」という言葉とともに盛り込まれたのです。
この理念を提唱したのは、ニルス・エリク・バンク=ミケルセンというデンマークの役人で、欧米で「ノーマライゼーション」という言葉、理念が浸透するきっかけとなりました。そして、知的障害者だけでなく、身体的な障害を持った人や社会的弱者とされる人も対象としようという流れになっていったのです。
流れはとぎれることなく、やがてスウェーデン知的障害児連盟のベンクト・ニィリエが「知的障害がある人もない人、すべての人が同じルールや形式で生活できること、その権利を保障するべき」という形で理念を整理し、8つの原理にまとめました。その原理がアメリカに伝わり、世界各国にノーマライゼーションの理念が広まっていったのです。
参考までに、8つの原理とはどのようなものか、記しておきます。
- 1日のノーマルなリズム
- 1週間のノーマルなリズム
- 1年間のノーマルなリズム
- ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験
- ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
- その文化におけるノーマルな性的関係
- その社会におけるノーマルな経済水準とそれをえる権利
- その地域におけるノーマルな環境形態と水準
原理について、この記事で詳しく触れることはしませんが、1~4は生活リズムやサイクル、5~8は自己決定や社会環境に関する原理となっています。
なお、ノーマライゼーションに関する日本での旗振り役は、厚生労働省です。「障害のあるなしに関係なく、だれもが地域社会において活躍可能な社会を構築する」ことを政策のひとつとして掲げています。国を挙げて、障害を持つ人の自立や社会参加に向けて、積極的な取り組みを進めているということです。
ノーマライゼーションとバリアフリーの違い
ここまで読み進めた方の中には「ノーマライゼーションとはバリアフリーと同じでは?」と思った方もいるのではないでしょうか。確かに、駅や公共の施設などでは、身体に障害を持つ人に配慮した整備が進められています。そういう視点で考えると、ノーマライゼーションもバリアフリーも同じものととらえられそうですが、正確にいうとイコールではありません。
バリアフリーとは、もともとは建築用語でした。文字通り、障壁(バリア)を取り除く(フリー)という意味で、わかりやすいところで例を挙げると、階段にスロープを作って段差をなくしたり、車いすを利用する人でも使いやすいトイレを設置したりといったことがあります。そこから派生して、人種差別や性的差別など、意識の面でも差別をなくそうという動きにも「バリアフリー」という言葉が使われるようになりました。
このように考えていくと、バリアフリーは、ノーマライゼーションを実現する手段のひとつと言えそうです。
そもそも、バリアフリーという言葉が使われるのは、障害を持った人を想定してのことですが、ノーマライゼーションの理念は「すべての人が同じ生活をする権利を有する」というところにあります。ここが、ノーマライゼーションとバリアフリーの大きな違いかもしれません。
介護におけるノーマライゼーションとはどういうこと?
最後に、では介護におけるノーマライゼーションとはどういうことなのかをまとめておきましょう。
ノーマライゼーションは、介護の基本となる理念です。つまり、心身の機能に老いが見えている高齢者を特別扱いするのではなく、社会の一員として生活できるようにサポートするということ。
わかりやすく老人ホームを例に挙げると、かつては、入居者をひとまとめにしてお世話をするスタイルが主流でした。しかし2001年以降は、個々人の生活リズムを大切にしながら各々の交流が持てる少人数での介護スタイルへと移り変わっています。「高齢者」とひとくくりにするのではなく、各々の尊厳を大切にした生活は、ノーマライゼーションの理念そのものです。
ノーマライゼーションとは、日本においては「障害のあるなしに関係なく、だれもが地域社会において活躍できる社会を構築する」として、国が掲げた動きのひとつであり、介護の基本をなす理念でもあります。理念は、行動基準ともいえるもの。介護業界で働いている人も、これから目指そうという人もしっかりと理解を深めておきましょう。